夢の中まで出てきたにおい

実家で飼っていた二匹の犬がそれぞれ死んでしまった時の喪失感を思い出していた。私よりも遅く生まれてきたのに、私よりもずっと早く消えてしまった、小さくあたたかな命。

その時の家族全員の憔悴ぶりといったらこの上なかった。私は朝から晩までひっきりなしに毎日泣いた。あんなに柔らかくて優しい生命に終わりがきたということがまったくもって信じられなかった。今でも受け入れることができずにいる。もう二度と脚にまとわりつくことはないあの爪の音がまだ脳に残っている。泣いてしまう。しばらくバッドに入ったら、まだまだ生きなきゃなんて思う。だって、あんなにも震える親の姿を見たのはあの2回きりだったから。大切にしていた命と触れ合えなくなるということはこういうことなのだと、私は幼いながらにいたいくらい思い知ったのだった。

 

夜眠りにつけない。ずっと熱にうなされている時のような最悪な気分だ。体をよじらずにいられなくなる瞬間が1日に何度もある。そうでなきゃいられない。腰や脚や腕や肩や指の一本一本、そのすべてが自分の一部なのだという事実にえもいわれぬ違和感を覚える。「付着している」としか思えない。魂が体を見限ってしまったのか。こんな状態で真っ当に社会になんか出れるわけがない。

みんなはそんな風には思わずに生活しているのだろう。そうに違いない。そうじゃなかったら、こんな状態を耐え抜かなければならない世界に鎮座することが苦痛でならない。起きた瞬間に頭がクリアだった、その最後が、いったいいつだったかさえもう思い出せない。ずっとずっと雑念に囚われている。