Felis

猫が死んだ。私の猫が死んでしまった。

体の小ささの割に誰よりも気高い私の猫は、つい先日の昼中に、人に看取られることなく逝ってしまった。きみはそれを選んだのか。最後まで一度だって頑張れとは言えなかった。激痛と苦しみのあいだできみがまどろんでいたとき、あの熱に燃やされもだえていたとき、私は笑いながら授業をしていた。

私の猫は生涯家の外に出たことがなかったので、時折焦れたように外を眺めていた。少々の憧れと好奇心で外界を慕っていたのだろう。きみは父がつけた名前で振り向いて、そこを死ぬまでの居場所にした。守られきった小さな城の中で人間の脚に絡みつくのが好きだった。

そしてとうとう外の世界を知らない猫のまま死んでしまった。

きみが選んだことなんかではない、というのはとうに分かっている。きみは寂しがりで、甘えたがりで、誰よりも何よりも孤独を嫌っていた。きみは外の世界から来た猫を敬うくらいに外界を慕っていた。ああきみは神に選ばれて選ばされたんだ。可愛い可愛いあの猫を、私の腕の中から神さまは奪っていった。本当にきみは一人で行ってしまった。私に一緒に行けと言ってほしかった。泣いてそう言ってほしかった。あんなにあんなに見守られながら、きみは自分に定められた道をたった1匹で行ってしまうのか。

きみは美しい、それはそれは本当にきれいな猫だった。その頬は、額は、眉間は、目は、口は鼻は手は、なんという美しさだったろう。置いていかれたってさよならを言おうとは思わない。きみは私の、私の家族の太陽だった。私はきみと偶然出会って、ごく当たり前に慈しんだ。今度生まれ変わってもまた会おう。天に生まれ変わって、きれいなままで、わたしもきれいに生きるから、きみにまた見つけてもらえるように。