汚泥も愛してた

朝早く車に乗って仕事に向かっていた。視界の隅がまぶしくて顔を向けると、窓についた朝露が凍って、ひどく美しかった。枕草子の「九月ばかり」を思い出した。その次の日は濃く霧が巻いていた。早朝で太陽は低く、建物にすぐに隠れてしまった。川の横を通り過ぎるその数瞬、光を浴びない霧は絵画の世界のように青くなり、空気を一変させた。幻想的で神秘的だった。うれしかった。冷たくてやさしかった。その次の日は退勤後に空を見ると一面鱗雲に覆われていた。地球が終わる日はこんな空なんだろうと思った。曇っていたけどどんよりとはしていなくて、すぐに日が落ちてもう見えなくなってしまったけれど、これが見られたなら星なんて見えなくていいやと思った。綺麗なものをちゃんと綺麗だと思えること、これ以上に嬉しいことってない。冷たいものが好き。冷たくて尖っていて静かなものが好き。