どこにも旅立てない

他人がどうなっていたってなんともない、そんな強靭な不道徳さが少しでもあればもう少し楽だったのかもしれない。中途半端な正義を抱いて育ったために私は不正を許さない。だから自分も許せない。私は自分のことを愚かで不正な申し訳のない存在だと絶えず感じ続けている。

やっぱり無理だと何回も思った。人に話せば話すほど自分でも分からなくなる何かが私にはあって、その違和感を知らんぷりしてヘラヘラしていると次第に声がうわずっていくのが分かる。いつもあの無感触な世界が私の中で膨らんで爆発しそうになる。目の前の光景は全て私一人が作り出した夢なんじゃないかとぞっとする。現実では私は妄想癖のあるどうしようもない女で、近くの小学校の校門の前でぶつぶつと独り言を言っているだけなのではないか。そんなことはありえない。だけど目の前にいる人たちと自分は何億光年離れたところで生きている別の生き物だということははっきり分かる。自分だけがただ一人、場違いなところに来てしまった別の人間で、やっぱり私は泣きながら食事をして、翌朝食べたものを全部吐く生活をただ繰り返すだけの女で、結局なにとも繋がってはいない。私だけが一人対岸にいる感じがする。みんなは向こう岸にいて、話していることは何一つ鮮明に聞こえない。それを誤魔化すためにただ大きな声で返事をする。それで会話が成立するわけもない。私にはなにも分からない。